雑誌『デザインノート 原研哉特集』/ 感想・レビュー
雑誌『デザインノート』で、デザイナーの原研哉さんの丸々一冊特集。一冊全て雑誌で特集されているのは、二〇〇七年の『アイデア』以来になる。
そのときは、原さんの著書でもあり、デザインの特徴でもある「白」というのが基軸で、白をテーマに製作したデザインを掘り下げ、またロングインタビューやエッセイの他、「原研哉に影響を与えた八人」として、深澤直人、ナガオカケンメイ、中沢新一、原田宗典といった面々が文章を寄せている。
一方、今回の『デザインノート』では、『アイデア』以降の原研哉さんの仕事がまとまっている。
前回と比較すると、どんなデザインをするか、という問題意識の軸が、より時代と密接に関わって具体的になっているように思う。「白」という表現の世界観を突き詰めることから、何を、どんな風に、という視点に軸足が移っている。
自分の根幹のスタイルが「白」の探求の末に形作られ、次のステージに向かったのかもしれない。
それは大枠で言えば「地方」であり、「観光」である。
この一〇年で世界中を回ることが多かったという原さんは、あらためてこれからの時代の「観光」のあり方について考えを巡らせる。
以下は、デザイナーの佐藤可士和さんとの対談の一節である。
今後世界中を動き回る人たちがますます増え、流動性が高まっていく世界において、富裕層からローカルの文化に関心を持つ若者までを呼び込めるような施設や移動体など、大きな意味での「観光」というものに産業としての大きな可能性が見えてきました。
出典 :『デザインノート〜原研哉特集〜』
この一文の特に「富裕層からローカルの文化に関心を持つ若者まで」という点に、原研哉さんの見据える世界が垣間見える。
日本には、すでに無数の資源がある。火山にせよ、温泉にせよ、雄大な自然と、その自然をもとに培われてきた歴史や文化がある。
僕自身地方出身者だから分かるが、案外自分たちのよさには気づけずに、むしろそのよさを壊してしまう方向に向かいがちだ。
しかし、海外観光客は、どこにでもあるものよりも、その場所しかできない体験やもの、風景を求めて訪れる。
きらびやかで新しいものよりも、太古の昔から存在するものを主役に据え、人間がわずかに手入れをしたり、美しさへの道筋を少しだけ舗装する。
誰の言葉だったか忘れたが、「世界はすでに足りている」という昔の言葉を読んだことがある。
その感性を、僕たちは取り戻す必要があるのかもしれない。そして、国内から世界中まで富裕層と、ローカルに興味を持っている若者たち、その両者を呼び込むことのできる施設や空間などに、「デザイン」という美の技術が求められる。
かつての「白」という美学に関して言えば、デザインや芸術の分野にいるひとにとって非常に興味深い内容だったかもしれない。
一方、現在原さんが取り組んでいる「観光」という思想については、ビジネスの世界のひとにとっても興味深く面白いのではないかと思う。
都市を経由せず、水陸両用機などで半島同士を直接繋ぐ「半島航空」構想といった大胆で具体的なビジョンも学びになる。