カシワイ / 絵

カシワイさんは、現代の漫画家、イラストレーターで、個人としてのイラスト作品集の他に、漫画や、多くの挿絵も担当している。

また、TwitterやInstagramなど、SNSでも自作を発表している。

本名は非公表で、「カシワイ」という印象的なペンネームの由来も、調べるかぎり分からなかった。

カシワイさんの絵は、繊細な線と余白が魅力で、童話のような世界観のなかに、寂しさや儚さがある。

都会的で洗練されているのに、どこか懐かしい温もりもある。

たとえ言葉がなくても、その線と情景で、一編の詩のような広がりを持っている。

カシワイ 作品

カシワイ 個人作品

カシワイさんの作品集では、たとえば、過去の日本の名作文学を短編漫画化した、『光と窓』がある。

カシワイさん自身が影響を受けたという古い日本の文学作品が、繊細な絵とともに表現される短編漫画集で、2020年に出版されている。

この『光と窓』に収録されている作品は、安房直子『夕日の国』『小さいやさしい右手』、小川未明『金の輪』、須賀敦子『こうちゃん』、草野心平『ごびらっふの独白』、新美南吉『ひとつの火』、宮沢賢治『注文の多い料理店  序』の7作品だ。

宮沢賢治の『注文の多い料理店』は、序文が収録されているが、この文章はとても美しく幻想的で、童話の序文にぴったりの名文だと思う。

わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、ももいろのうつくしい朝の日光をのむことができます。

またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどや羅紗らしゃや、宝石いりのきものに、かわっているのをたびたび見ました。

わたくしは、そういうきれいなたべものやきものをすきです。

けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりのいくきれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。

宮沢賢治『注文の多い料理店  序』

漫画内では、この宮沢賢治の序文に、カシワイさんの絵が、漫画のような、挿絵のような形で添えられている。

カシワイ『光と窓』

また、カシワイさんが特に深く影響を受けた作家として、児童文学作家の安房直子さんを挙げている。

安房直子さんはすごい影響受けたというかずっと好きですね。日常の延長線上で、不思議なところに行く。その空想世界を生き生きと書いています。

特に色彩の書き方がとても美しいと思います。「夕日の国」でも「砂漠が夕日で真っ赤だった」と書けばいいところを、原作では夕日が「ひなげし」(花の名前)の色だったと書いています。結構独特な表現が多く、色彩にはこだわっていたのかなと思います。

あとは「小さいやさしい右手」のように、暗くて寂しい部分も書いた上で、優しくて少し希望を持った世界を書いている。大人になって読んでも心惹かれます。

カシワイさん「光と窓」インタビュー 闇の中で遠くにある光もとめ、童話世界を漫画に

挿絵や漫画の作品以外に、カシワイさんのイラスト作品は、ホームページのpersonal worksに掲載され、その絵は一冊の小さな画集『Kashiwai’s Works』に纏まっている。

カシワイ『Kashiwai’s Works』

どうやら部数限定の自主制作で販売されている作品集らしく、「いるす書房」という名前のBOOTHのアカウントで情報が見られる。

この画集は、ときおりぽつんとタイトルのような一文がある以外、一切言葉はなく、淡々と絵が載っている。

カシワイさんの作品は、言葉のないたった一枚でも、その奥に物語を感じるので、台詞や文字がなくても十分美しい世界を堪能できる。

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