ポーランドの画家ダヴィッド・プラネタ

ポーランドのグラフィックデザイナー及び画家で、うつ病を患っているというダヴィッド・プラネタ。彼が、向き合っている自身のうつ病の世界を表現した作品が、『Journey through the jungle of mind(心のジャングルを旅する)』である。

絵のなかでは、陰鬱で靄がかかった白黒のジャングルに、様々な巨大生物が漂っている。当然のように広がる反転した風景が、より不安感を誘う。しかし、同時に、彼の絵を見ていると、不思議な調和に引き込まれるように思える。

そのダヴィッド・プラネタの作品のなかで、特に気になったのが、闇のジャングルで魚と遭遇する絵である。

ダヴィッド・プラネタ『Journey through the jungle of mind』

ぼんやり眺めていると、魚は飛んでいるのではなく「泳いでいる」ということを実感する。そしてまた、この木の下で両手を挙げる人物も、確かに「立っている」。

両立しないものが並存している。今にも壊れそうな危うさが、モノトーンの世界と相まって、不気味な独立性を醸し出している。

心のジャングルを旅する、というタイトルにあるように、彼の心の内側の世界を表現したのだろうか。靄がかかって見えるのは、実際の体感なのかもしれない。

言語的に解釈するよりも、そのまま受け取っておきたい、なぜか心落ち着くシュールな世界でもある。

そういえば、部屋で一人この作品を観ていたら、薄暗い色調で木の周辺を泳いでいる魚、というモチーフに、以前宮崎駿監督が描いた「夜の魚」を思い出した。

夜の魚というのは、劇場版ジブリ作品ではなく、三鷹の森ジブリ美術館で上映される短編アニメーション『毛虫のボロ』に描かれる。この作品自体は観たことがないが、夜の魚は、宮崎監督のドキュメンタリーのなかで制作シーンが登場し、少しだけ見た覚えがある。もちろんジブリアニメなので、プラネタの作品と比べたら、ずいぶんとポップな存在ではあったが、それでも、木々に囲まれた暗闇の世界を泳ぐ魚、というのは、不気味な気配を漂わせるものだった。

それから、ポーランドの画家という点で言うと、もう亡くなったが、ズジスワフ・べクシンスキーという画家の作品も、なかなか衝撃的なものとして印象に残っている。

誰が言い出したのか知らないが、何度か見ると死ぬといった話もあるのだと言う。そういった話が付き纏うのも分かるほどに、暗く、終末的な、絶望や退廃の世界が描かれている。

ただ、陰鬱さを表現するなら、個人的には、プラネタが静かに描く内省的な世界の方が合っているなと思う。

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