リルケの手紙

ライナー・マリア・リルケは、オーストリアの詩人。1875年にプラハで生まれ、1926年に白血病によって51歳で亡くなる。

リルケ

リルケ 25歳頃

リルケは、手紙をよく書き、そのなかでも、詩人志望の青年フランツ・カプスへの手紙は、『若き詩人への手紙 若き女性への手紙』として出版され、よく知られている。

リルケとの手紙のやりとりをしていた頃、カプスの年齢は20歳手前で、将来に悩んでいた。一方、リルケも、20代後半とまだ若いものの、優しさと厳しさに満ちた言葉をカプスに贈っている。

特に印象的な文面が、創作活動を続けるべきかどうかについて綴った、「死ななければならないか」という自問を促す言葉だ。

誰もあなたに助言したり手助けしたりすることはできません、誰も。

ただ一つの手段があるきりです。自らの内へおはいりなさい。あなたが書かずにいられない根拠を深くさぐって下さい。それがあなたの心の最も深い所に根を張っているかどうかをしらべてごらんなさい。

もしあなたが書くことを止められたら、死ななければならないかどうか、自分自身に告白して下さい。

何よりもまず、あなたの夜の最もしずかな時刻に、自分自身に尋ねてごらんなさい。私は書かなければならないかと。

ライナー・マリア・リルケ『若き詩人への手紙 若き女性への手紙』

書かないと生きていられないかどうか、という根本的な問いかけを、しかも、夜のもっとも静かな時刻に尋ねてみること、と助言する。

騒々しさから離れ、ぽつんと一人になった夜の静寂のなかで、自分自身にとって「書くこと」は命なのか、ということを問いかけてみる、ということだろう。

リルケの手紙は、内容については厳しく、重たいものの、同時に決して不自然ではなく、すっと入ってくる。

鼓舞するというより、包み込むようにして問いかけ、相手が自身のなかで答えを導き出すような文面になっている。

リルケは、外側ではなく、内側を大切にすべきだ、と繰り返し説く。

決して外からくるかも知れない報酬のことを問題になさってはなりません。なぜなら、創造するものはそれ自身一つの世界でなくてはならず、自らのうちに、また自らが随順ずいじゅんしたところの自然のうちに、一切を見いださけばならないからです。

あなたが外に眼を向け、外から答えを期待されることほどそういう御成長を妨げるものはありません。

あなたの問いには、あなたの最も内部の感情が、最もひそやかな瞬間におそらく答えてくれるものでありましょう。

ライナー・マリア・リルケ『若き詩人への手紙 若き女性への手紙』

外の声よりも、自分の奥底にある声に耳を傾けること。夜の静かな世界、ひそやかな空間に身を預け、その最も内側の感情が答えるように創造することで、一つの世界となっていく。

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