永遠のような、優しい満月の夜を描いた絵。作者は、庄田耕峯という明治から大正時代にかけての日本画家、版画家、狂歌師だ。
庄田耕峯は、1877年(明治10年)に東京の神田に生まれ、1924年(大正13年)に48歳で亡くなる。本名は庄田完と言う。
詳しい経歴ははっきりしないが、中学卒業後、浮世師の尾形月耕に師事し、尾形のもとで人物画を学び、中央新聞社に入ってからは挿絵を描いたそうだ。
尾形月耕『亀井戸義(『婦人風俗尽』)』 1891年
48歳という若さで亡くなったことや、途中で画壇を離れ狂歌の世界に向かったことなどから、作品数もそれほど多くはない。
日本では知名度は高くないものの、海外の著名な収集家ロバート・ミューラーのコレクションによって2003年頃から徐々に広まり、注目を集めるようになったと言う。
ただ、作品自体はネット上で見られるものの、庄田耕峯に関する画集や作品集、伝記など関連本の出版は未だなく、情報はほとんどと言っていいほどない。
耕峯の作品の舞台は夜が多く、月夜の静けさがしばしば題材となっている。
月明かりだけでなく、街灯や遠くの民家の窓からこぼれる灯りなど、夜の闇をほんのりと照らす光景が美しく描かれている。
また、作品には水面や木々もよく描かれ、そのかすかに揺れるような波や枝葉によって光だけでなくほのかな風も演出されている。
人物も描かれるが、人々の姿は気配に近く、匿名性の世界が広がり、一期一会の悲しみと美しさが表現されている。
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