西島大介『すべてがちょっとずつ優しい世界』 / 漫画

好きなミュージシャンがおすすめしていた漫画に、西島大介さんの『すべてがちょっとずつ優しい世界』がある。

画風や内容から、ちょうど自分の心の温度にはまる漫画というのがあるが、この『すべてがちょっとずつ優しい世界』は、まさに、自分のなかで温度感の合った作品の一つだ。

単巻漫画なので読みやすく、寓話的で詩のような静かなトーンが続く。

漫画の舞台は、小さな島の小さな村である「くらやみ村」で、登場するキャラクターは不思議な妖精のような村人たちだ。

この世界には、くだもの畑があり、観測所があり、船着場があり、穴ぼこ山がある。穴ぼこ山は、くらやみ村の隣にあり、かつて炭鉱で栄えたものの、今は掘り尽くされ、捨てられ、誰もいなくなっている。

西島大介『すべてがちょっとずつ優しい世界』

くらやみ村は、闇と静寂の村。でも、お祭りの日だけは、神様に許された日として、広場に小さなひかりを灯し、数少ない村人たちが輪になって踊る。

そのひかり以外で、くらやみ村を灯すのは、唯一夜空にうっすらと見えるオーロラだけだった。

静かで寂しい、くらやみ村だったが、その村に、あるとき遠くの街の人が、「ひかりの木」を植えようと提案してくる。

この提案に対し、最初村人は断り、その決断に街の人も納得する。街の人は、「この村はよい村で、私たちが失ったものがある」と言う。

そのくらやみ村が、まもなく大嵐に襲われ、大きな被害を受けることになる。被害を受けた村を、街の人が色々と助けてくれる。そして、この経験のあと、「ひかりの木」を植えることについて、村人たちは、誰も反対することはなくなる。

ところが、その「ひかりの木」を植えたことで、次第に失われていくものがある。守ってきたものが、剥がれ落ちていく。

苦しみから逃れようと、守ろうと、光に手を伸ばし、その光によって、本当に大切なものが失われてしまうことになる。その切なさが描かれる。

漫画の世界は、淡々とし、誰かを責め立てることもなければ、憎しみもない。誰が悪いわけでもなく、激しい対立もない。タイトルにある通り、すべてがちょっとずつ優しい世界だ。

すべてがちょっとずつ優しく、寂しく、それゆえの救いがある。

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