カシワイのイラスト画集
カシワイさんは、漫画家、イラストレーターで、個人としてのイラスト作品集の他に、漫画や、多くの挿絵を担当している。
TwitterやInstagramなどSNSでも自作を発表している。
本名は非公表で、「カシワイ」という印象的なペンネームの由来も、調べるかぎり分からなかった。
カシワイさんの画風は、線と余白が特徴で、童話のような夢の世界観のなかに、寂しさや儚さもある。
都会的で洗練されているのに、懐かしい温もりがある。
作品集では、たとえば過去の日本の名作文学を漫画化した『光の窓』がある。
この漫画に収録されている作品は、安房直子『夕日の国』『小さいやさしい右手』、小川未明『金の輪』、須賀敦子『こうちゃん』、草野心平『ごびらっふの独白』、新美南吉『ひとつの火』、宮沢賢治『注文の多い料理店 序』。
宮沢賢治の『注文の多い料理店』は序文が収録されているが、この文章はとても美しく幻想的で、童話の序文というに相応しいものだと思う。
わたしたちは、氷砂糖をほしいくらいもたないでも、きれいにすきとおった風をたべ、桃いろのうつくしい朝の日光をのむことができます。
またわたくしは、はたけや森の中で、ひどいぼろぼろのきものが、いちばんすばらしいびろうどや羅紗や、宝石いりのきものに、かわっているのをたびたび見ました。
わたくしは、そういうきれいなたべものやきものをすきです。
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けれども、わたくしは、これらのちいさなものがたりの幾きれかが、おしまい、あなたのすきとおったほんとうのたべものになることを、どんなにねがうかわかりません。
出典 : 宮沢賢治『注文の多い料理店 序』
漫画内では、この賢治の序文に、カシワイさんのイラストが漫画のような、挿絵のようなかたちで添えられている。
カシワイ『光の窓』
また、カシワイさんが、特に深く影響を受け、ずっと好きだというのが、児童文学作家の安房直子だという。
安房直子さんはすごい影響受けたというかずっと好きですね。日常の延長線上で、不思議なところに行く。その空想世界を生き生きと書いています。
特に色彩の書き方がとても美しいと思います。「夕日の国」でも「砂漠が夕日で真っ赤だった」と書けばいいところを、原作では夕日が「ひなげし」(花の名前)の色だったと書いています。結構独特な表現が多く、色彩にはこだわっていたのかなと思います。
あとは「小さいやさしい右手」のように、暗くて寂しい部分も書いた上で、優しくて少し希望を持った世界を書いている。大人になって読んでも心惹かれます。
挿絵や漫画の作品以外に、カシワイさんの絵としてのイラスト作品は、ホームページのpersonal worksに掲載され、その絵は一冊の小さな画集にまとまっている。
カシワイ『Kashiwai’s Works』
部数限定の自主制作で販売されている作品集なのかもしれない、「いるす書房」という名前のBOOTHのアカウントで情報が見られる。
ときおりぽつんとタイトルのような一文がある以外、一切言葉はなく、淡々と絵が載っている。
カシワイさんの作品は、言葉のないたった一枚でも、その奥に物語を感じるので、台詞や文字がなくても十分美しい世界を堪能できる。