香月泰男の言葉と絵 『春夏秋冬』

香月泰男かずきやすおは、山口県出身の洋画家である。1911年、山口県大津郡三隅村(現・長門市三隅)に生まれ、地元の学校を卒業後、東京美術大学に入学する。

美術学校を出たあと、1936年に、北海道の中学に美術教師として赴任。2年後には山口県の下関の高等女学校に転任する。

1943年、戦争で召集され、満州に行く。

終戦も、ソ連に抑留され、シベリアで強制労働に従事。この過酷な抑留体験が、のちの香月の主となる画題(代表作『シベリヤ・シリーズ』)に繋がる。

香月泰男「海拉爾(ハイラル)」

この香月泰男の絵と言葉から、詩人の谷川俊太郎さんが「春夏秋冬」をモチーフに選出し、纏められた画集が『春夏秋冬はるなつあきふゆ』である。

絵の一つ一つは、抽象画や自然物が中心であり、香月泰男の描く自然物には、日本画でしばしば描かれるような儚さはなく、力強く「存在」している。

絵から、私はここに在る、という意志が伝わってくるようだ。これもまた抑留体験によって培われた画風なのだろうか。

香月泰男『春夏秋冬』

彼の綴る言葉も、「自然」や、あるいは「芸術」と真っ向から向き合ったものが並び、日記風の散文もあれば、詩もある。

谷川さんが、過去の彼の言葉を一通り読み通し、選んでいったと言う。香月泰男の芸術に関する思想も書かれている。

たとえば、芸術に関連しては、以下のような言葉が印象に残っている。

神の創造した万物は、如何程寸断されようが次から次に新鮮な姿を見せてくれます。その創造技術の何億兆万分の一かを手でつかみ得た人類のことを、巨匠天才といふのでせう。

花は、来る年来る年、新鮮に咲き続けてゐる。私はそれを追ひ掛けながら描いてみるが、花のやうに毎年新鮮には描けない。

実在感とは、そこに生命を持つたものがあると言ふことだ。在るやうに見えると言ふことではない。重量感と言ふことは、作者の人間重量のことである。

谷川さんが構成を担当しているだけあり、この本自体が、終わり方の美しさも含めて一つの詩になっているように思う。

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