川瀬巴水の雪景色

川瀬巴水は、1883年に東京で生まれた、大正から昭和にかけての浮世絵師、版画家で、衰退していった浮世絵の再興のために、版元の渡邊庄三郎や、画家の吉田博らとともに「新版画」を確立した近代風景版画の第一人者である。

叙情的な日本の風景を描いた作風が特徴で、海外の人気も高く、葛飾北斎や歌川広重と並び称されるほどの存在でもあり、Appleの創業者であるスティーブ・ジョブズが愛した画家としても知られる。

巴水の作品のなかで印象的な風景としては、月夜や水辺に加え、雪景色も挙げられる。巴水の雪は、美しく、軽やかで、風が吹けば絵からも吹き去っていきそうにさえ見える。巴水はかつて、この雪の描写に関して、「皆一様に点体のみで降る雪を現している様です。それではどうも物足りませんので、一つもう一層真実に近いものにしたい」と書いており、雪の描写への繊細なこだわりが伺える。

以下、川瀬巴水の描く、雪景色である。

川瀬巴水『雪に暮るる寺島村』 1920年

川瀬巴水『雪の金閣寺』 1922年

川瀬巴水『芝増上寺』 1925年

川瀬巴水『上野東照宮の雪』 1929年

川瀬巴水『牛堀』 1930年

川瀬巴水『雪の向島』 1931年

川瀬巴水『尾州半田新川端』 1935年

一つ一つの絵に描かれている雪が、それぞれに違っている。日本的とも言える風景を、様々な降雪が彩っている。ただ、描かれている「雪」の様はそれぞれに違うものの、どれも「雪が降っている」という全体の生命の流れが断ち切られることなく、繊細に掬い取られているように思う。

人物は、傘によって顔が見ないことも多く、雪や町など、風景のなかに、ぽつんと佇むようにして溶け込んでいる。ほのかな寂しさと調和が美しい。

また、巴水の雪の作品で言えば、絶筆となった、『平泉金色堂』も挙げられる。

この絵については、1957年、完成を見ることなく巴水は亡くなり、版元として支えた渡辺庄三郎が仕上げたと言う。

川瀬巴水『平泉金色堂』  1957年

この雪が降っている金色堂の絵よりも、20年以上前に描かれた、同じ構図の作品があり、もともとは夏の夜の誰もいない光景だったものの、同じ構図で晩年に描いた際には、しんしんと雪が降り、さらに一人の僧侶が描き込まれている。病床のなかでの最後の絵に、僧侶を描きこんだことから、作者の巴水自身を重ね合わせたのではないか、という声もある。

一人の人生における終わりを、静かに受け入れているかのような作品となっている。

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